#3 Siesta

Mutant


マイケルがエミリオの家のドアを叩いた途端にドアが開いた
M・Maria:マイケル、あんた何ぼやぼやしているのさ
戸口を塞ぐようにママ・マリアが立っていた
Michael:えっ? あの・・僕は・・
M・Maria:坊やとマリアは、とっくにあたしを呼びに来たよ
Michael:そんな馬鹿な・・だって、そんなこと・・できっこない
唖然として戸口に突っ立ったままのマイケルは大笑いされた
M・Maria:何、寝ぼけてるのさ あたしの夢に決まっているだろ
 やけに本物みたいな夢だったけれど、そんなことあるわけないんだから
 あぁ、こういうの、なんていったっけ そうそうテラポシーとやらだよ
自信満々で言うママにマイケルは噴出すのをどうにかこらえた
そんなマイケルにお構いなしでママ・マリアはもうマイケルたちの家に向い歩きだしていた
Michael:あの・・病院へ連れていったほうがいいのかな
あとを追いながらマイケルは不安げに聞いた
M・Maria:どうかね いざとなったら、あたしがいるよ 心配するこたぁない
 あたしの子たちは下の子が生まれるとき順番に手助けしてくれたものさ
 うちの頼りない亭主やお偉い白衣の先生より頼りになる
 こういうとき男は、からっきし役に立たないから
 ふぅむ、マイケルあんたはどうかね

ママ・マリアは家のドアを開けると、まっすぐマリアの元へ駆け寄った
M・Maria:坊やのご機嫌はどうだい?
Maria:さっきまで暴れていたけれど少しおとなしくなったわ
M・Maria:そうかい、それじゃ一息つくとしようかね
 おやおや、なんて心細そうな顔をしてるんだい
 ほらマイケル、側にいておやり
マリアの様子をみたママ・マリアはベッドの側から離れキッチンの方へ行った
マイケルはベッドの側に座るとマリアの背中をさすった
Maria:なんて情けない顔しているの、あんたの方があたしより心細そうよ
Michael:リズに電話したよ すぐ来てくれるそうだ
 だけど、どんなに急いだって1時間以上はかかる
 こういうとき思うよ、僕たちが今も宇宙船を持っていたらって・・
M・Maria:そりゃいいね、救急車より何千倍も早い
マイケルの言葉をママ・マリアは、うまい冗談のように受け取り笑っていた

Michael:ママ・マリアは心配するなって言うけれど・・そんなこと無理だよ
Maria:あたしが重病人で今にも死んじゃいそうだと思っているの?
 あたしたちには初めてのことでも普通のことなのよ・・
 2回目の偉大な一歩かな それにとっても嬉しいこと
 マイケル、さっきの話だけれど、考えてくれた?
マリアの手を握り、顔にかかった髪の毛をはらいながらマイケルがつぶやくようにいった
Michael:・・ママ・マリアが言ったんだ
 僕が行くまえに、お前とちびが呼びに来たって
 リアルな夢だとママは言ったけれど、もしかすると現実のことかもしれない
 憶えているか、僕はハルに僕たちの命を助けてもらったことを打ち明けた
 彼は驚いたけれど・・僕の存在を否定はしなかった
 ママ・マリアには簡単に信じてもらえないかもしれない
 いいよ、お前の信じるようにしてみたらいい
Maria:ありがとうマイケル
 だけど・・マックスやイザベルに言わなくてもいいの?
Michael:あのことが起きる前、僕たちはいつのまにか責任を全部マックスに
 背負わせてきたんだ
 でも秘められたパワーを分散したということは責任も分割して持つということだよ
 各々が違う場所で違う人たちと関わっていくことを否定する必要はない
その顔から少し前まで見せていた心細さは消えていた
Maria:えぇ、この子はあなたとあたしが守るべき大切な存在だわ
 そのために必要なら・・
Michael:そうだ
短い返事が力強かった
あたしたちは、変わり始めている
ロズウェルにいたころは絶対に秘密は守らなければいけないものだった
M・Maria:エミーリオ! そんなところでウロウロしてないで
 ミランダとアメリアをこっちへ寄越してちょうだい
ママ・マリアがキッチンの窓から叫んでいた
テキパキ働く彼女の後ろ姿は二人を励ましているように見えた

マイケルの手を握っていたマリアの手に力が加わった
Maria:・・・ママに話さなくちゃ・・
Michael:わかった
マリアの額に優しくkissするとマイケルはキッチンへいった
M・Maria:そろそろ、おチビさんにお目にかかれるかね
Maria:準備運動中ってところ・・
 あのね・・もし、この子が生まれるときにママも経験しなかったことが
 起こっても驚かないでほしいの
 黙っていたけれど、マイケルの遺伝子はあたしたちとは違うの・・・
M・Maria:赤ん坊はみんな宇宙人みたいなもんだ
Maria:えっ!?
M・Maria:子供が生まれるたびに、うちのエミリオが言うんだ
 昨日までお腹の中にいて姿かたちも見えなかったのに
 いきなり登場して我がもの顔で振舞うし、言葉も通じない
 そんな宇宙人がにっこり笑うとこれが天使になるってさ
 母親の贔屓目でみても小猿みたいな赤ん坊にだよ
ママ・マリアが信じられないというように大げさに驚いてみせる
M・Maria:どんな子だってあんたたちの大事な子供だろ
 あたしゃビクともしないよ
温かい手がマリアの頬をやさしく叩いた

Emilio:マリーア、ミランダたちを連れてきたよ
遠慮がちなエミリオの声がした
その後ろでマイケルが優しくマリアを見つめていた
M・Maria:さぁてと、マイケルに側にいてもらうかい?
マリアは首をふった
M・Maria:それじゃ、ここは女たちに任せて
 エミリオ、そこのハンサムボーイに父親の心得でも教えておやり
マリアはマイケルとエミリオに微笑んだ
二人の姿が見えなくなると思い出したようにママ・マリアが聞いた
M・Maria:なんの話をしていたんだっけ
Maria:もういいの それよりマリーアって呼んでいたけれど
M・Maria:あたしの名前の正しい発音だよ
 あんたもママになるんだから、これからはあたしのことを、そう呼んでおくれ
 もう一つ教えとくよ うちの子たちの名前を順に言ってごらん
Maria:ミランダ、アメリア、リカルド、イザベラ、アンジェロ
M・Maria:よろしい、じゃ頭文字をつなげてごらん
Maria:M・A・R・I・A・・あっ、マリア
M・Maria:そのとおり、いつでもママが一番偉いのさ
マリアがニッコリ笑った
M・Maria:うーん、いい笑顔だね
 坊やはその笑顔に会いたくてやってくるんだから


エミリオとマイケルは戸口の階段に座っていた
Emilio:飲むか?
エミリオがテキーラのボトルを差し出した
Michael:いや、僕は酒は飲めない
Emilio:そうだったな・・ってことは一度は飲んだ経験があるんだ
Michael:あぁ、酷い目にあった
 そのときもマリアがいっしょで散々ぼやかれた
Emilio:つきあいが長いんだな マリアと出逢ったのはいつだ?
Michael:二人とも16歳のとき
Emilio:で、どっちの一目惚れだ?
Michael:あいつの車で僕が誘拐してマラソンまで行った
Emilio:わぁお、なんと情熱的な話だ 寝たのか
Michael:あいつがベッドで僕は床さ
Emilio:ほっほー、面白れーや
Michael:それに一目惚れってのは違うけれど・・いやそうなのかな
Emilio:そうしておけ、女はみんな男が先に惚れたと思いたがる
マイケルは家の中の様子が気になり落ちつかなかった
Emilio:落ち着けよ 男がウロウロしたって、なんにも出来ない
 おい座れよ 面白い話をしてやる
しぶしぶ元の場所に座ったマイケルに向ってエミリオが欠伸をした
Emilio:ごめんよ うちのかみさんが朝早くから大騒ぎするもんだから
 聞いたろ、夢の話
 馬鹿げた話だけれど、こいつがちゃんと筋道が通っているんだよ
 まだ生まれてないお前とマリアの子供がハイハイしてやってきて
 かみさんを起こしたんだと 天使みたいに可愛い子がちっこい手を出したら
 手のひらに5個の青いコンペイ糖が乗ってたそうだ

アンタールの紋章・・・エミリオならわかってくれるかもしれない
マイケルは自分のことを話してみようと思いはじめていた
Michael:僕たちがここへ来るまで住んでいた町のこと知ってるか?
Emilio:たしかロズウェルだったよな
 ふぅむ、俺たちの生まれるずーーっと昔にUFOが墜落した町だ
Michael:もし、それが本当のことで・・異星人が地球にいたとしたらどう思う?
Emilio:お前がその末裔だとでも言うのか?
エミリオは何かを思い出すように考えていた
Emilio:そうか・・お前、親がいないんだったな
 いいじゃないか、どっから来ようと
 俺だってルーツをたどったら、どこから来たかわからないぞ
 アステカの先祖は海の向こうの光の国からやってきたっていうんだからな
 ホセ・エミリオ・エスペラール・エンハンブレ・ピラール
 こいつが俺の正式な名前だ ご先祖は自己主張が強かったらしくてさ
 住んだところだの家系だのやたら名前に入れたがるんだ
Michael:エスペラール エンハンブレ・・(Esperar Enjambre)
エミリオがニヤリと笑った
Emilio:スペイン語、思い出したか? 
Michael:星屑を待つ・・だよな
Emilio:そうだ、もしお前が異星人の末裔なら、俺はそれを待っていた人だ

たぶんエミリオは僕の話を信じてはいないだろう
それでも嬉しかった
話が終わるのを待っていたかのように室内から産声が聞こえてきた
二人は同時に立ち上がり抱き合って喜んだ
Emilio:おいマイケル、抱きつく相手が違うし痛いぞ・・
 やったな! お前も親父だ! 早く行け
肩をさすりながらマイケルに声をかけたときに、もうマイケルの姿が家の中に消えていた

あいつ・・いつドアを開けたんだ・・なんか光ったような・・こいつは完全に寝不足だ
独り言をつぶやきエミリオはテキーラのボトルから一口飲んだ



ママ・マリアと二人の娘たちがニコニコしている
戸惑ったように立っているマイケルの背中をママが押した
M・Maria:早く坊やに挨拶しなよ
マイケルはゆっくりとマリアの側に歩き出した
二人の愛しい息子が隣で眠っている
Michael:マリア・・・
Maria:ほら、あなたのパパが来たわ
 あたしたちのとっても大切な人
幼子が目を開けマイケルを見た
Michael:ほんとうに天使みたいだ・・
Maria:羨ましい、あたしにはそんな言葉、言ってくれたことないのに
拗ねたように言うマリアが輝いて見え、今まで感じたことのない感情が湧いていた
Michael:ちゃんと教えてやってくれ
 僕がこの世の中で一番愛しているのはマリア、お前だ
 次がこいつ・・その順番は変わらない
キッチンから口笛と歓声が聞こえた
外からブレーキ音が響くと、リズとマックスが駆け込んできた
Liz:マリア! マイケル!
家の中は幸福な空気に満ち溢れていた
M・Maria:あんた達がリズとマックスだね
 あたしゃ、うちの子以外にもたくさん子供を見てきたけれど
 ごらんよ、なんてハンサムな坊やだこと
 間違いなく、あたしの夢に出てきた子だよ

リズはママ・マリアらしき人が言ったことが気にかかった
二人の子供は、なんらかの能力を持っているのか
考えまいとしても不安が押し寄せる
その気持ちを察したようにマックスが肩を抱いた
不安を振り払ってリズはマリアたちの側に歩み寄った
Liz:おめでとう マリア
 二人とも無事でよかった・・へんないい方でごめんなさい
Maria:ううん、いいのよ あたしも少し心配だったから
 でも、これでわかったでしょ
 大丈夫よ、注意することは後から教えてあげるわ
マリアが小声で付け加えた
Liz:私たちは、まだそんな心配をすることはないけれど
リズが笑いながら自分のお腹に手を触れた
頭の中で突然映像が揺らめいた
Liz:あの・・聞かなきゃダメみたい
Maria:えっ!!
キッチンの窓から朝の光が差し込んでいた

=To be continued=


AuthorNote★
なかなか本題に到達しませんねぇ〜
他の子たちの誕生については省略しちゃいそう
そろそろRoswellの町での話にしなくちゃ先に進めなくなってきそうです
ということで今回はジョエルの誕生とエミリオ一家との関わりでおしまいね