#4 Generic

Mutant

ねぇマイケルは、いつもあんな風なの?
ベビーベットを覗き込みジョエルをあやすマイケルの姿をリズは信じられないように見ていた
Maria:驚いちゃうでしょ
 子供好きなのは前から知っていたけれど
 仕事に行くとき以外はもうベッタリなのよ
ジョエルはマイケルの顔を見ながら手足をばたつかせて喜んでいる
Maria:あの子ったら、パパのことを自分専用のおもちゃか何かと
 勘違いしちゃってるかもしれないわ・・
 ちょっとマイケル、いい加減、ジョエルを寝かせてよ
 いつもならとっくにお昼寝している時間だわ
 あなたが顔を見せると、ちっとも寝てくれないんだから
Michael:あぁ、わかっている
 もう少しだけ・・な
ジョエルの頬を人差し指でつついた
呆れたようにマリアは助けを求めてリズを見た
Liz:心配ないわよ ジェシーも同じみたいだから
Maria:そうなの? ねぇ、イザベルはまだロズウェルにいるの?
 あたし、フリーダの顔見ていないのよ

Liz:イザベルはフリーダといっしょにいるわ
 ジェシーは仕事でボストンに戻っているけれど週末ごとにとんぼ返りよ
Maria:弁護士って儲かってるのねぇ
 ボストンに帰る前にここへ寄ってくれないかしら?
Liz:まだご両親がフリーダと離れたがらないみたいなのよ
Maria:ふぅん、パパvsグランパ・グランマ連合かー
 ねぇ孫ってそんなに可愛いのかしら?
Liz:ハンサムボーイでしょって自慢していたの誰だったかしら〜?
 あなただってマイケルに負けていないわよ
Maria:あたしはママだもん、いいの
Liz:ママといえば、あなたのママこそ、どうだったの?
Maria:最初はあんまり、あっさりしていて驚いたわ
 困ったのは予定日が、まるっきりわからないんだもの
 なんていえばいいのか迷っているのに、気にしなくていいだって
 そのくせ、あとから知らせるしかなかったことで結局ムクれるし
 でもジョエルの顔をみた途端、しっかりグランマになっちゃったわ
 自分では"おばあちゃま"なんて絶対呼ばせないって息巻いていたくせにね
 将来女の子を泣かせちゃったら、どうしよう・・そんなとこ似ないでほしいわ
Liz:気が早すぎるわよ
 そういえば、あなたのママはロズウェルにいなかったみたいだけれど
Maria:あまりいっしょにいると、ほんとのおばあちゃんになりそうだから
 羽伸ばしてくるって出かけちゃった・・若い恋人探してくるなんて言うのよ
 飛んでるママを持つと、娘はホント苦労するわよ

マリアの視線が目立ち始めたリズのおなかに向いた
Maria:マックス、きっと、あなたもスィート・ダディクラブに入るわね
Max:そうなのかな・・
マックスはリズの顔とマイケルの姿を見比べながら困ったような顔になった
Maria:間違いないわよ、あのマイケルの姿を見たでしょ
 だけど、あなたなら愛しのリズを忘れることはないわね
マリアの言葉にリズの顔には、なぜか寂しげな微笑が浮かんだ

小さな手を握りしめ、嬉しそうに自分を見つめるジョエルの顔を見ていると時間が過ぎるのを
忘れてしまう
エミリオが言っていたとおり、子供は天使だ
おい、お前はその手の中にどんな未来を握っているんだい?
いっぱい教えることがあるんだ、早く大きくなれよ
ジョエルの小さな手がマイケルの人差し指を握った
マイケルの脳裏にグラニリスから分散される6本の閃光が広がった
まさか・・お前は、あのとき見ていたのか
1週間前に天文台にかかってきたリズの電話の予想は、やはり正しかった


Michael:珍しいな、君が直接僕に電話してくるなんて
 マリアにはないしょの秘密のことか?
マイケルは冗談でリズをからかったつもりだった
しかし、答えは違っていた
Liz:そうね、余計な心配をさせたくないから、まだマリアには言えないわ・・
Michael:もしかしてジョエルの検査結果のことなのか?
Liz:そう・・でもジョエルの体に問題があるわけじゃないわよ
 少し気になることがあるだけ・・
 マイケル、あなたたちのパワーの要素は人間も持っていることは知っていたわね
Michael:あぁ、ナセドから聞いた
Liz:まず先に言っておくわ、ジョエルは全く正常よ
 血液細胞を含め体の組織には、あなたたちの遺伝的要素は受け継がれていなかった
 つまり身体的に普通の人間の子供と全く同じということ
答えのかわりにマイケルの安堵のため息が聞こえてきた

Liz:それは、ある程度、予測していたことだったわ
 あなたたちの遺伝子は通常では地球の大気に適応できない
 地球で生存するためには培養した人工の皮膚が必要だったでしょ
Michael:スキンズのことだな、だけど僕たちの組織は適応できた
Liz:えぇ骨格も皮膚も細胞内部の組織の違いを除いて完璧にね
Michael:それじゃ気になることっていうのは何なんだ?
Liz:パワーは大脳皮質の神経伝達物質からもたらされているの
Michael:それも知ってる、リズ結論だけ言ってくれ
Liz:わかったわ
 これは友達としてではなく客観的に研究者として言っていると思ってね
 本来のあなたたちは、わからないけれど人間の乳児の脳は
 まだ未成熟なままなで誕生するの
 ほとんど本能的なことにしか使われていないわ
 でも抑制する知識の蓄積もないから、成人が使わない部分を使う可能性が高いのよ
Michael:もしジョエルの脳内に僕たちのような能力が隠されていたら、昔の僕みたいに
 パワーがコントロールできないってことか・・
Liz:たぶんコントロールという意識はないわ
 おなかがすいたとか眠いというのと同じ、使ったとしても無意識だと思う
 あなたたちの遺伝子は操作されたものだから確実ではないのよ
 でも胎児は母体に守られて育ったから、本来のあなたたちの持つスピードで成長したの
 あなたたちが保育器の中で成長できたのと同じ環境になったのよ
 表に現れていない能力を見つけるためにはパワーでスキャンするしかないわ
 でも、それは眠っている能力を、かえって誘発することになるかもしれないから乳児には
 危険が多すぎることになるの もっと詳しく検査できれば・・・

 ごめんなさい、こんな言い方して
 まるでジョエルをモルモットみたいに扱っているみたいね
 でもフリーダはまだ小さすぎて・・
Michael:・・確かにマリアには言えないな
マイケルの声は沈んで聞こえた

何をいっても不安を消し去ることはできない
それはマイケルとマリアだけが抱える問題ではなくイザベルたちもカイルたちも同じ
まもなく私とマックスも同じ不安をかかえなくてはいけないならないのだから
Liz:マイケル、憶えておいてほしいの
 もしジョエルがパワーを使えたとしたら、あなたが最初に感じるはずよ
Michael:わかった、気をつけるようにする
 来週、マックスといっしょに、ここに来る予定だったよな
Liz:そのときまで、できるだけ調べておくようにするわ
 だから二人のことお願いね
Michael:リズ、僕にも頼みがある
 この話、マリアには黙っていてくれないか
Liz:言われなくてもそうするつもりだったわ
 マイケル、出来ることならあなたにも黙っていたかった
 でもジョエルは・・パワートライアングルを知っている唯一の子かもしれない
Michael:・・・・あぁ神様
思わず口にした言葉は正直なマイケルの気持ちを表していた
ロズウェルを離れて忘れようとしてきた記憶がよみがえる
あれほど望んでいた真実の故郷がどこまでも彼らを苦しめ続けていた


何しているの? スィート・ダディ
呆然とベッドの側に立っていたマイケルはマリアの呼ぶ声に現実に引き戻された
まだ、わからないことだ・・・リズだってそう言っていた
マイケルはマリアに動揺を悟られないようにマックスに声をかけた
Michael:・・マックス、お前ももうすぐ仲間だな
 それじゃ、あわてないように親父の心得でも教えてやるよ

重くのしかかる不安な気持ちを隠し、マックスを引っ張るように屋外へ連れ出した
Maria:ねぇリズ、今の聞いた!
Liz:マイケルの負けず嫌いは今に始まったことじゃないでしょ
 そんなこと今さら驚かないわよ
マイケルのぎこちなさを少し感じながらリズは軽く受け流した
マリアはマックスの背中を見送るリズの表情の中に何か隠されていることに気づいた
Maria:ねぇリズ、ママがブルーになっていると一番先に悲しむのはベビーなのよ
Liz:えっ!?
Maria:何があったか知らないけれど親友のあたしに隠そうとしても無理なの知ってるでしょ
 ジョエルが、まだおなかにいた頃は何度も逃げ出したくなった
 あたしが弱虫なの昔から知っているでしょ
 きっと今頃、マイケルがマックスに話しているわよ
 八つ当たりは、マイケルが一人で引き受けてくれたから
Liz:私もそうしていればよかった
Maria:何を? 今のあなたはマックスが不思議な力の持ち主なのを
 あたしに隠そうとした高校生のときみたいだわ
 思慮深く優しい、辛いことや苦しいことは自分ひとりで背負い込もうとする
 あなたの長所でもあるんだけれど、それじゃ自分が損しちゃうわよ
 やっぱりマックスのことなのね 浮気でもしたぁ? はは、まさかね

検査に没頭してきたつもりだった
でも、自分も母親になることを知って、拭い去れない思いが心の奥に宿っていた
それが隠そうとしていたジョエルの心配よりもマリアに伝わっていた


マイケルはひとり言のように話だした
Michael:驚くようなことじゃなかった・・・
 リズの電話より前に、とっくにわかっていたことかもしれない
 ジョエルが生まれる前のマリアの腹部は、まるでオレンジ色に染まった保育器そのものだった
Max:そうか・・リズの予測していたことが起きたのか
Michael:あいつ、僕たちといっしょにパワートライアングルを見ていた
Max:マイケル、あのときラングレィが言ったこと覚えているか
 普通の人間のマリアをパワーの危険から守る方法のことを今にわかると言っていた
Michael:マリアを強力なパワーから守ったのは僕ではなくあの子だったのか
マイケルが苦笑すると道の小石が小さく弾けた
Max:だけど悪いようにばかり考えることはないと思うんだ
 僕は、お前とマリアとの間で光が三角形に循環しているのを確かに見た
 ラングレィの言っていたのは一人では出来なくても「家族」で、お互いを守るということじゃないか
Michael:「家族」で・・・
Max:そうだ 誰よりも先にお前はそれを手に入れただろ
 同じ運命のもと生まれアウトサイダーだった僕たちは今まで多くのことを学んできた
 それはロズウェルの仲間たちが助けてくれたからだ
 誰にも知られずひっそりと生きていくことしか考えていなかったのに
 こんなふうに離れて暮らし始めて、自分の世界が広がったのを感じるよ
Michael:マックス・・僕たちはどんな力を手にしたんだろう
 今、僕は家族を守る力を持っているんだろうか・・・

Emilio:よっ、親父クラブのお二人さん
 なーに落ち込んだ顔してるんだよ
 かみさん連合に追い出されたか? 母は強しだからな〜
 まっ、そのうち慣れるさ、ほらよ
マイケルはエミリオが投げたスナップルを受け取った
Emilio:Hasta manana(明日があるさ)
口笛を吹きながら去っていくエミリオを見ているうちに暗い思いが薄らいでいった

Michael:エミリオが教えてくれたこと
 1日24時間あったらいいことばかりじゃない、悪いことやイヤなことが多くても
 たったひとつ嬉しいことや楽しいことがあれば、儲けものだ
 どっちを優先するかなんて本人の思いようでいくらだって変えられる
 どうしても見つけられなかったら、アスタ・マニヤーナだ
Max:アスタ・マニヤーナ(明日がある)・・・いい言葉だな
Michael:親父クラブの合言葉にするか?
Max:マイケル、その「親父クラブ」って名前は情けなくないか?
Michael:だよな
二人はいつのまにか笑っていた


Maria:無理に言うことないけれど・・話してみる?
Liz:・・・こんなこと馬鹿げていると思うのよ
 でも、どうしても考えてしまうの・・
マリアとリズはベビーベッドのジョエルの寝顔を見ていた
ときどき尖らせる唇がマリアに似ている
Maria:リトル・スペースボーイ、あんたは大物だわ
大の字で眠る姿に二人とも微笑んでいた
その場を離れソファに座るとリズは思い切って話し出した
Liz:マリア、テスのこと憶えているわよね
Maria:テス!! 忘れるわけないじゃない、あんな性悪女!!
 あの女のこと忘れるなんて、アレックスを忘れろと言ってるのを同じだわ
 あたしエバの顔を見ると今でも間違って殴りそうになって手がうずうずするわ
Liz:エバはテスとは別人よ 私、あの子とはよく話すもの
Maria:だけど同じ顔よ そうか、もう一人のマックスがいたから恋敵じゃないものね
Liz:そのことじゃないけれど・・・関係ないとはいえないかな
鍵をかけていた心の奥の重い扉が静かに開いた
Liz:マインドワープの結果だとしても、マックスは・・彼女と寝たのよ
Maria:リズ・・・それは・・過去のことでしょ
 すべてテスの策略でマックスが望んだ結果じゃなかった
Liz:わかっているわ 私もマックスも十分すぎるほど苦しんだから
 でもマックスがどれだけ私を大切にしてくれていても事実は変えらない
 そのことを責めるつもりなんかないの
Maria:じゃあ何なの?
Liz:結果のことよ・・・もし私たちの知らないところで・・
 もう一人の子供が生まれていたら
Maria:そんなこと、ありえないわ!!
Liz:そう言いきれる?
リズの苦悩、それはマリアの想像を超えたむずかしい問題だった
可能性を否定できるのは姿を消したテス本人に会うしかない
想像が現実のものだったとしたら、もっと問題は複雑になる
その子は愛する人の子であると同時に絶対に許すことのできない仇の子でもある
マリアは黙ってリズの肩を抱いていた
Maria:リズ、あなたいつまでラボにいるつもりなの?
 よかったら、ここに来ない? 普通ならロズウェルに帰るのが当然でしょうけれど
 あたしのときを考えると、お隣のマリーアに側にいてもらうのが一番じゃないかな
 彼女曰く、いざというとき頼れるのは女同士だって
 もしマイケルが気になるなら天文台に追い払うわよ
 台風マリアに遭遇すると、よーく避難してたから気にしなくていいの
 ね、そうしよ 悪いことを悩み続けていてもハッピィになれない
 悲しいことにさよならしたら、アスタ・マニヤーナ(明日はもっといい日になる)
 へへ、ぜーんぶ、マリーアに教えてもらった受け売りよ

ドアを開けようとしていたマックスの手が止まったまま震えていた
知らなかった・・・リズがそんなことを考えていたなんて・・
自分では思い出したくない過ぎたことでも、リズにとっては終わってはいなかった
僕は彼女の苦しい想いの半分もわかっていなかったのだ
マックスはドアに背を向け再び戸口に座り込んだ
追いかけるようにマイケルも隣に座った
Michael:災難を呼び寄せる体質は僕だけじゃなかったのか
 なぁ人生ってデコボコのオフロードレースみたいなものだな
 お前は僕より子供のとき恵まれていたら、帳尻あわせに試練を用意されたみたいだ
 こいつも運命の神様のいたずらかな・・・おっと神は信じていないんだったな
 だけど、待ったなしのブルーは本人の気持ちでどうにもできないらしい
Max:それ、マタニティ・ブルーのことか?
Michael:隣のマリアが間違っておぼえていた
 間違いなんだけれど、実際にそうだったから妙に納得できるよ
 リズだって、本当は誰よりもあんなこと想像したくないんだ
 ただでさえ、子供たちのいろんな問題を解こうとしてくれている
 マリアが言っていたこと、考えてみないか
 お前、さっき言ってくれたよな、一人で出来ないことも「家族」なら出来る
Max:今のリズにとって最善なのは、ここに来て静かな環境で子供の
 誕生を待ったほうがいいな
Michael:他人の方が遠慮なくわがままになれることもあるさ
 ただし静かは無理だ なにしろ人一倍おせっかいで好奇心旺盛なお隣の連中が
 入れ替わり立ち代り覗きにくるぞ
 だから、かえって余計なことを考えている時間がなくなる
Max:僕たちの子供はみんな組み合わせが違っているから
 リズはずっと分析にかかりきりだった
 その状態のままでいることが、彼女の負担になるのが心配だった
Michael:リズも意外と頑固だからな
 本当はお前もここに来てエミリオ語録を聞けばいいと思うんだ
Max:そうしたくなってきた
Michael:僕のところに転がり込むのは、これが初めてじゃないだろ
 歓迎するさ
少し考えた後にマイケルは続けた
Michael:マックス、僕たちはここにずっと住むつもりはないんだ
 1年すぎたら別の場所に移るよ お前たちとも簡単に会えなくなるかな
 ここで、すばらしい家族に出会えて、別れることは辛いさ
 災難を引き寄せる体質が一生治らないとしたら、ひとつの場所の留まることは
Max:無関係の人に災難を及ぼすしな
Michael:アスタ・マニヤーナ 先のことは先で考えよう
  二人は立ち上がると家の中に入った

リズはそれから2ヶ月後にマリアたちのところへ戻ってきた
にぎやかで暖かい家族の中でザックは無事に誕生した


クラッシュダウンカフェのUFOのネオンが見えてきた
この町に帰ってきた
マイケルはマリアの手を握りなおした
ドアベルが4年前と同じように響いた
そして店内には懐かしい顔が並んでいた

=To be continued=



AuthorNote★
またしても本題までたどりついていません  待ちくたびれて飽きてきたかしら?
ずいぶん長くなってしまったので、この辺で一度更新することにしました 
さぁ、そろそろRoswellの町でのお話になりますよ〜
ザックの誕生のお話は回想シーンで、ご披露しようかと思っていますのでお楽しみに
このお話を書いていてもキャストたちに違和感のない年齢になりましたね
子供を抱いている姿がわりと簡単の想像できまーす