#5 Tangly Maze The1st RightTurn

Mutant

コンピューターがフリーズをした
Michael:クソ、またか
マイケルは固まった画面に向かって悪態をついた
それはリズからの電話を聞いたあと何度も繰り返された
自分のパワーが影響していることは明らかだ

どうすればいい・・何ができる
本心は何も考えたくなかった
それなのに次々と浮かぶのはジョエルを不幸にしかねない記憶ばかりだった
 『人間というのはムダだらけの生き物だ すばらしい頭脳を持ちながら、そのほとんどを
  使いこなせずにいる』
余計なお世話だ・・
 『君たちは数千年後の進化した人間に匹敵するようにプログラムされている
  ・・・パワーを抑えているのは君自身だ』
完璧な人間の骨格と進化した能力をプログラムされた人間?
馬鹿にするな、僕たちは気まぐれに作られた実験的クローンか
自分ではどうにもできないジレンマに爆発しそうな気分がする
普通どおりに仕事をしようとすればするほど、ぐちゃぐちゃになった感情は
微妙にマシンに影響し狂わせていた
曖昧な人間と違ってマシンは敏感すぎるんだ
座っていた椅子を回転させるとマイケルは立ち上がった

Michael:悪い、早退させてくれ
Jack:早退? 今夜の観測はお前が当番だろ
Michael:代わってくれ  見ろよ、僕のマシンはスト決行中だ
ジャックがマイケルのマシンを覗き込むと画面にノイズが走った

マイケルはすでに上着に手を通しかけていた
Jack:なんだかずいぶん慌てているんだな 何かあったのか?
Michael:いや・・別に、ちょっとした野暮用さ
Jack:それなら僕にだって予定ってのが・・
Michael:予定?ないだろ
 あのな、デートは相手を見つけてから考えるもんだ

何気ない普通の会話でさえ苦痛に感じる
厚めの眼鏡のジャックは亡くした友達を思い出させた
かき乱される感情を押さえようとバイクのキーを握り締めると
マイケルのコンピューターが不自然に点滅を繰り返しはじめた

見たことがない、おかしな現象に反論するのを諦めたジャックはため息をついた
Jack:あーあ、わかったよ どうせ、ほんとに予定があったとしても
 キャンセルしろって言うんだろ
 お前は太陽か・・ったく世の中はマイケル中心に動いていると思っているんだから
本当にそうなら、こんな気持ちになるもんか・・
いつもの冗談が心に突き刺さる
Jack:交換条件だ、またマリアの夕食をご馳走しろよ
Michael:あぁ、わかった いっておくよ
 ただし今晩は、あきらめろ
マイケルは背中を向けたまま答えると外に出た
どこへ行けばいい・・・まだ帰れない


=CrashDownCaffe・現在=

腕の中のジョエルの重さが過ぎた時間を思い出させる
今ここにいる誰もが、きっと同じように感じていただろう

Liz:子供たちは、みんな上で眠っているわ
 昔の私の部屋、覚えているわね
Maria:あたしが連れていくわ
マイケルの腕からジョエルを受け取りマリアは階段を上っていった
わずか数年がずいぶん昔のことのように思える
クラッシュダウンカフェのUFOのネオンや内装は変わっていない
ウェイトレスの頭では、アンテナは揺れていなかったけれど
入り口のエイリアンの人形は同じ場所にあった

Max:あのシグナルがアンタールからのものなのは間違いないんだな
Michael:あぁ、正確に僕たちが住む4箇所の地域に向かって送られていた
 何かを知らせるようにだ・・いまさら何をさせようというのか
Kyle:政府関係も動き始めたらしいぞ
 親父がFBIの情報を聞き出してくれた
Jessi:状況を考えれば、それも仕方ないことだ
Michael:状況? 仕方ない!? 僕たちはテロリストと同類か
 あぁそうだよな 不法侵入した異星人は地球に害を及ぼすに決まっている
 はっ、状況なんて、まるでわかっていないじゃないか・・・
 軍やFBIが考えることは僕たちを捕まえることだけなのさ
 だけど、それで何をする気だ
 半世紀前から、考え方は、ちっとも進歩していない
 やつらの考えることは権力を誇示し優位に立とうとしているだけで
 その先に起こることなんか気にしているものか
 征服者になるのが、そんなに楽しいか
 僕たちが・・いや誰が犠牲になろうが気していないのさ

Jessi:何が言いたい?
 僕は単に政府の意向を客観的に言っただけだ
 ここにいる誰かが犠牲になることなど推測したくもない
Isabel:二人とも落ち着いてよ
 どうするべきか考えようとしているときに言い争って、どうするの
Jessi:あぁ、そうだった
 僕はここにいる他のみんなと違って、君たちのパワーの恩恵を受けない
 ただの人間だから信じられないんだな
 最初から僕を仲間だなんて認めたくなかったんだ
   それで君たちを裏切りFBIに通報しないかと、馬鹿げた疑いをかけて気が済んだのか
 まるで、君がいう横暴な政府のやりかたと同じだな
 イザベル、僕は君と出逢い、君を愛し結婚した
 確かに君たちが隠していた真実を知り、驚いたよ
 普通の人間なら当然の感情だろう

あいつの気持ち少しわかるな・・俺も最初は仲間にいれてもらえなかった・・
カイルのつぶやきは、何かを思い出そうとしているエバには聞こえていない

Michael:それでも真実を知りたがったのは、あんたのほうだろ?
 自分から面倒なことに首を突っ込んでおいて、今はイザベルを連れて
 逃げ出したいのか・・勝手だな
横を向いたマイケルは薄笑いを浮かべた
むっとした表情でジェシーはマイケルに詰め寄った
Jessi:君こそ、本心は、このチャンスにイザベルを取り戻したいんだろ?
Michael:それは、どういう意味だ!
Max:止めるんだ、二人とも
 ジェシー、フリーダは君にとって何だ?
マックスの問いかけに、ジェシーは押し黙ったまま少し離れた椅子に
居心地が悪そうに座った
Max:マイケル、お前も頭を冷やせ
マイケルは不服そうに腕組みをしたまま、その場に立っていた

Max:僕たちが、この町に戻った意味を忘れないでくれ
Ava:そうだ! それだよ
考え込んでいたエバが叫んだ
Kyle:なんだよ、突然・・
エバはマックスの側まで近づくと言葉を続けた
Ava:まだ・・NYにいたとき、ザンが次世代のこと言ってたんだ
Max:彼はこのあとに起こることを知っていたのか!!
Ava:たぶん知っていたはずだよ 自分たちはそのために作られたって・・
Kyle:なんでそんな大事なこと忘れてたんだよ
Ava:だって、誰にもくわしく話そうとしなかったから
リズが言葉を引き継ぐように続けた
Liz:いやな想像だけれど、あなたたちを復活させた本当の目的は
 むしろ、そのためだったのかもしれないわ・・
 遺伝子を人間のものと結合させ再生させる科学力があったのなら
 その先に起きることを考えていなかったはずないわ
Michael:またか・・・それが僕たちに課せられた使命ってやつか?
 身勝手な過去の亡霊なんかに操られてたまるか
Maria:違うわ、あなたは自分が誰なのかまた忘れたの
 過去にどんな人生があったとしても、あなたは今のあなたでしかない
 あなたたちに再び命を与えたどこかの誰かが、どんなシナリオを準備していたとしても
 マイケル それは、今のあなたの人生ではないでしょ
いつのまにか階下にマリアが戻っていた

みんな、少しだけ動揺していただけだ
争うために集まったのではない、子供たちの命も自分たちの人生も
見失いたくないからこそ集まったのだから
マリア・・また助けてくれたな
僕が進む道を見失いそうになると君は手を差し伸べてくれる・・あのときもそうだった


あてもなく天文台を出て、この場所に来てからどのくらい過ぎたのだろう
ロズウェルより砂漠の多い、この土地で唯一懐かしさを感じさせる場所だった
小さな湖を見下ろせる岬は、仲間たちが集まった採石場を思い出させた
アレックス・・モンク・・ナセド・・もう戻らない顔が浮かんだ
異星人である自分を否定することはなかった
むしろ人間であろうとするマックスに違和感すら感じていた
ここは長くいる場所ではなく、いずれ自分たちは去っていくのだから
人間との関わり合いなど無意味なことで苦痛でしかなかった
だが今はそれを否定する自分がいる
視線の先の夕陽が沈み、空の星に輝きが増して来ていた
マイケルの足元を風が吹き抜けていった

自分たちの星は過酷な宿命だけを与え何もしようとしなかった
違う種族の巣に卵を産み落とすかのように地球上に捨てていっただけだ
星の手がかりさえ残さず、この星で生きていく術も知らない命を放り出していった
成長は保育器まかせ、無事に誕生できるかどうかさえ無関心だったではないか
幼い命を守るべき保護者は、自分の身の危険から僕たちを守ることを放棄した
僕らは自分の足で保育器を出て、何もわからないまま巨大な迷路に踏み出した
とてつもなく、入り組んで出口さえ見つかりそうもない迷路に・・
その間、保護者は何をしていた? いまいましい義務から逃れることが出来なかっただけで
正体を現さずに傍観してきた
いや、彼らにも星に帰る保障はなかったのではないだろうか・・
あいつらも僕たちと同じように星から見捨てられた存在だったのか

それなら、なんのためにわざわざ復活などさせた
子供のころ唯一の希望だった見たことのない故郷の星が悪夢の種に思える
今の幸福は全部自分の力で手に入れたものだ
 こんな呪われた運命は僕たちだけで十分だ・・
 お前たちが勝手に望んだとおりになってたまるか
マイケルは夜空に向かって叫んでいた
乱れた感情がつむじ風を巻き起こしマイケルの周りを渦巻いていた
ふいにマリアの笑顔が浮かんだ
 いつまで、そんなところにいるの?
 あなたの居場所はどこなのよ、マイケル、早く帰っていらっしゃい
思わず後ろを振り向いたほど近くに声を感じた
マリア・・・
風は止まっていた


今夜は観測のはずなのに・・
いつもなら一度戻っている時間を、とっくに過ぎていた
不安な気持ちがどんどん強くなる
 こんなことなら私たちの秘密のこと話しておけばよかったね・・・
ジョエルの寝顔を見ながらマリアは後悔していた

それが始まったのは、いつからなのかはっきり思い出せない
日中マイケルが二人と離れていても、彼が何を考えているのか
どんな風に仕事をし同僚や他の人たちとすごしているのか見えた
「見えた」 おかしな言い方だか、その表現が一番ぴったりくる感覚だった
はじめはジョエルといっしょに、うたた寝をして夢でも見たのかと思った
冗談ぽくマイケルに聞いてみて、それが現実に起こっていた事だとわかっても
それが彼らの持っているパワーのせいだとは想像することはなかった
時々とてつもないことを想像する自分の勘が働いただけだと思っていた
ジョエルという天使と出会って二人の絆が深くなったのかと嬉しかった

でも違っていた・・・
1年前のあの出来事が原因で、リズのようなパワーを持つなど簡単に信じられない
そして気がついた・・それが起きるのは、いつもジョエルが眠っているとき
目をさましているときに同じ現象が起こったことはまだ一度もない
自分の力がどれほど影響しているのかわからない
だがジョエルが持つ未知のパワーが関係していることは間違いなかった
真実に気づいてもマリアは不思議と動揺しなかった
むしろ予期していたことが起きたと感じただけだった
自分にマイケルのようなパワーを少しでも持つことが出来たのなら、この子が困ることが
起こっても助けてあげられる・・
もし自分に、その可能性があるなら出来るだけ試すべきで、嘆いたりしている暇などない
何度が繰り返してみると、浮かんでくる映像を自由に切り替えられるようになった
まだ、それが自分の力なのか、ジョエルと二人の力なのかは、区別はつかなかったが
コントロールが出来るようになるとマリアはなるべくオフにするようにした
 あなたが他の人の心を読めたとしても無闇に使っちゃダメよ
 プライバシーは尊重するというルールがあるの
あたしたちは、もうロズウェルにいた頃の10代の高校生ではないもの
マリアはマイケルを信頼していた
彼はあたしたちを悲しませるようなことは絶対にしない
こんなことあたしが言うのリズが聞いたら笑われるかな・・ねっ
唇を少し開いて安心しきって眠っているジョエルは
マイケルの寝顔と同じ表情をしていた

しかし今日の午後の衝撃は今まで感じたことがないものだった
 あれが私の力なら、私のほうが素質があると思わない?
 あなたのパパは全然コントロールできなかったのよ
マリアは眠るジョエルの巻き毛を指にからめながら微笑んでいた
その途端、立っていられないほどの衝撃に目が眩んだ
 何?! マイケル! 何が起きたの
ふらつく足で電話をかけようとしたとき目をさましたジョエルが泣き出した
 大丈夫なのね、そうよ、マイケルを感じるもの
 でも何も見えない・・
ジョエルを抱き上げあやしながら自分に言い聞かせるようにいった
マイケルの心の中は怖いくらいの渦となって押し寄せる感情の波だけが 広がる漆黒の闇だった
 あなたが目をさましたのは、ここで待っていろっていうことなの?
マリアは不安で息苦しくなってきた

意識を集中して何度試してみても、何も見えてこない
マイケル自身が拒絶しているんだわ・・・まるで昔の彼みたいに心の奥を必死で
見せまいとしていた
怒りや悲しみと愛情が出口を失い、渦巻いているのが微かに感じられた
ダメよ、そのままじゃあなたがどうにかなっちゃうわ・・
あせる気持ちとは裏腹にマイケルの心の扉は頑強さを増していった
マリアの不安な気持ちを振り払うように小さな手の感触がした
目の前で天使が笑っていた・・
ここに住むようになって、ごく普通の生活に慣れてしまったのかもしれない
FBIやわけのわからない敵のことも、マイケルたちの中の別の遺伝子のことでさえ
いつのまにか忘れようとしていた
それを思い出させたのは皮肉にもジョエルのパワーだった
ジョエルの小さな手がマリアの頬に触れた
浮かんだできたのは両手を広げ笑顔を見せると背を向けて立ち去っていくマイケルだった
『心配するな、子供扱いしないでくれ』
マイケルは拒絶しているのではなかった

 わかったわ、あなたは一人で何かに立ち向かおうとしているのね
 ここで・・・あなたの家で待ってるわ


ジョエルがようやく眠った
 パパが帰ってくるまで眠っていてね
深呼吸をするとマリアはもう一度マイケルに接触しようと試してみた
気持ちが伝わったようにバイクの止まる音が聞こえてきた
 帰ってきた・・・
マリアをドアを見つめたまま動けなかった

マイケルはバイクに乗ったまま灯りのともる自分の家を10分あまりも見ていた
僕の家・・僕の家族だ
いっしょにいられるだけでいい・・どんな運命が待っていようと受け入れてやる
何度も自分に言い聞かせ続けていた
そのために・・自分が、どうなろうかまわない
マリア・・お前を・・
マイケルはドアに向かって歩き出した

おかえりなさい
マリアの声が聞こえた途端、何もかも忘れた
マリアの姿以外は何も見えなくなった

上着を脱ぎ捨て大またで近づいてくるマイケルの姿が視界の中で
どんどん大きくなっていった

=To be continued=


AuthorNote★
予告しておいて、お待たせしてすみません
こんなところで終わり〜!!! ブーイングが聞こえます
タイトルどおり、お話が込み入ってきたので、ここで段落といたします
続きは3日後にUpします(嘘じゃないですよ〜)