#6 TanglyMaze The2nd DeadEnd

Mutant

マリアはサンドレスの白と黒のストライプの数を花占いのように数えていた
コットン・リネンの感触が、指先に残る
 あたし・・なぜ・・そうか
マイケルが戻らない時間を落ち着かない気持ちで過ごすうちに、クローゼットから
無意識に、このドレスを取り出した理由は単純なことだった
 「それ、似合っているよ」
いつもマリアの着ているものなど気にも留めないマイケルが、これを着たときだけ
唐突に褒めてくれたからだった
ジョエルの寝息が聞こえたとき、マリアが最初にしたことは、そのドレスに着替えたことだった
どうしたら彼の行方を感じられるのか・・こんなこと、意味がないことに決まってる
でも、それくらいしか思い浮かばなかった

家の前にバイクが止まる音が聞こえてきてから
マイケルがドアを開け姿を現すまでマリアは身じろぎもせず
閉じられたドアを見つめつづけていた
最初の3分間は何も考えずにマイケルを待っていた
次の3分、彼がこのまま自分たちの前から姿を消してしまうのではないかという
不安が頭をよぎり開かないドアを睨み続けた
次の3分間、思考能力がなくなり頭が痛くなってきた
 あたしは半日も心配し続けていたのよ・・
 あなたの家に戻ってきたのに何を迷っているの
ふつふつと湧き上がる怒りの感情はすぐに、かき消された

ただ、逢いたかった・・ドアを開けて自分を抱きしめてほしかった
いつもと変わらずに、その日の朝、マイケルが同じドアから出かけていったのは
たった半日前のことなのに何日も前のように思えた
最後の1分間、まるで秒読みを始めた爆弾を目の前にした気分になり
自分が砂時計の砂になってサラサラと消えていっているように感じていた
バイクの止まる音を聞いてから、ほぼ10分が過ぎたとき突然ドアが開いた
マリアの目に無数の感情が光の渦の中に立つマイケルが見えた

Maria:おかえりなさい
自分を目指し一直線に歩いてくるマイケルの姿がスローモーションに見える
 ・・・彼の心の扉が開きはじめている
 ジョエル、ここから先は、あたしたち二人にしてね
 もう少し大きくなったら今日のこと、ちゃんと教えてあげる
 でも今はダメ・・楽しい夢をみていてね
マリアはジョエルとのラインをオフにした

次の瞬間、マリアはマイケルの腕の中にいた
複雑に入り乱れていた感情がマリア一人に向いていた
Maria:あ・・・
マリアは、ありとあらゆる部分にマイケルを感じた
体も頭も心の中のすべてに
苦しいほど抱きしめられたままキッチンの壁に押し付けられた
背中に回されていたマイケルの手が、マリアのドレスのボタンを掻き分け
進みだした途端、触れていた部分から粉々になり消滅していった
 やだ・・これ、気に入っていたのに・・
 あっ・・・僕もだ・・ごめん
あたしに答えてくれているんだわ

だがマイケルの手は動きを止めなかった
マリアの首筋から喉をマイケルの唇がたどっていった
衝動的とも思える行動には優しさが含まれてる
 何があったの・・
問いかけに答えず邪魔なものが、なくなったマリアの胸に顔をうずめた
爽やかなハーブオイルの香りと微かに残るミルクの甘さがマイケルの鼻腔を刺激する
 くそっ・・ハーブは精神を安定させるなんて絶対に嘘だ
手のひらの中の丸みが豊かさを増しているのが自分のためでないことに嫉妬している
 チクショー、なに馬鹿なこと考えているんだ・・
 ほんとね
それでもマイケルは内側から沸き起こる衝動を止めることができなかった
 何やってるんだ・・まったく・・これじゃ、高校生に戻ったみたいじゃないか
 熱帯夜のクラッシュダウンみたい? 嫌じゃないわよ
マイケルが顔を上げ、マリアを見つめた
 この目だわ・・寂しげで、どこか哀しげ
 それなのに落ち着かなくなるくらいセクシーで・・
マリアはマイケルの瞳に写る自分を見つめながら、ゆっくりと彼の頬を包みkissした
キッチンの窓から差し込む月明かりがマリアの裸身を照らしていた
性急に流れていた時間が一瞬止まった

マイケルはTシャツを脱ぎ捨てるとマリアを壁際から抱き上げた
時計は違う時間を刻み始めた
マイケルが見せてくれた記憶が、より鮮やかにマリアに伝わった
強い意志に導かれるように、小さな手を暗い洞窟の壁に差し出す男の子の姿
開かれていく扉から強烈な太陽の光に満ちていく

 わかったわ、マイケル
 あなたは、地球(ここ)で生きていくための扉を自分の手で開けていた
 でも、この星はあなたに過酷な生き方しか与えなかった
 だから熱帯夜のクラッシュダウンのドアも、どしゃぶりの雨の日も
 ドアを開けたのは、あたしだったわ
 熱で死にそうになったとき、あなたに手を差し出したのはマックス・・
 今日のマイケルは心を閉ざしていたんじゃない
 あなたは、もう一度自分でドアを開けようとしているのね
 ・・う・・ん、それに・・集中しているのは、もう限界よ
繊細でリズミカルな動きに呼び起こされる感覚は、甘く刺激的だった
マリアはマイケルの意識下に隠されているものを知るために必死で維持してきた
ラインをオフにした

肩から首筋に腕をまわし、マイケルの髪をくしゃくしゃにした
マリアの膝の感触がマイケルのわき腹をくすぐる
Michael:マリア
熱くなめらかな柔らかさに包まれていった
腕の中のマリアの感触だけを残し目の前の光景が光の中に霞んでいく
白い光のトンネルの向こうに何かが見えた
 僕だ・・・
傷ついた心を抱きかかえ座り込むマイケルがいた
哀しげな瞳は、涙で潤んでいる
青い靴ひもの赤いスニーカーの女の子が近づいていった
後ろから大きなダルメシアンが、その子を守るように尻尾を振りながらついていく
女の子は、側に立っているだけで何もしようとしない
言葉もかけずに、ずっと側にいるだけだった
光の中のマイケルが横を向き、涙を拭うと自分から立ち上がった
マイケルから手を差し出すと女の子はニッコリ笑って手をつなぎ歩き始めた
ダルメシアンが尻尾をパタンと鳴らした

Michael:・・マリア
Maria:マイケル
現実と幻想が入り混じり、今まで感じたことのないほどの強烈な快感が
二人の身体を貫いていった
同時に重い鎖のように絡み合っていた運命から解放されていった


情熱の余韻を残し呼吸がようやく平常に戻った
マリアは自分とジョエルの間に起きていたことをマイケルに話した

Michael:おしゃべりなお前が、よく黙っていられたなぁ・・
Maria:失礼ね、でもそうなのよね
 うんざりされるほど朝から晩まで、あなたに張り付いて
 大騒ぎしていたはずなのに・・
マリアの素直さは母親になっても変わっていない
好奇心旺盛な大きな瞳をくるくるさせ首を傾げたマリアは出逢った頃のままだ
Maria:ジョエルがね
Michael:ん?
Maria:あなたに話そうと頭の中で想像しただけで猛烈に怒るの
Michael:怒る?
Maria:そう、すっごいのよ、まだ小さいのに大暴れして、あたしを蹴るのよ
Michael:よくやった! あっ・・
腕の中でマリアが睨んでいた
Maria:なによ、それ
 とにかく、どんなにあやしても断固拒否、あの頑固さは誰かに、そっくり
 まるであたしを必死に止めようとしているみたいなのよ
 眉間にしわ寄せて、眉はヒクヒクするし
マリアの説明につられ、マイケルは眉間にしわをよせ 眉を上下してしまった
Maria:それそれ、癖も遺伝するの?
 あたし、あの子が特別な力を持っていたとしてもいいの
 あなたの特殊な遺伝子の影響でも親子だもの当たり前なのよ
 子供からスタートしたあなたたちに"使用上の注意"を
 教えてくれる人が側にはいなかったわ
 でも、あの子にはあなたがいる
Michael:ちょっとばかりコントロール難ありだぞ
Maria:今は違うわ
マリアはマイケルを見上げ、見つめた
Maria:1年前のあのことの結果、みんながどう変化したのか
 誰にもよくわからなかった
 あなたたちの能力に、どんな変化が起きたのか知るような出来事もなかった
 あたしたちだって、リズみたいに何か変化が起きることがなかったから
 無理して知ろうとしないできたわ
 でも、これはイザベルとエバの能力が組み合わさっているみたいだわ
 あんたたち4人はそれぞれ能力が違っているでしょ
 未来のマックスが4人がバラバラになると能力が弱くなると言っていたって
 だからロズウェルでもNYでも、4人が一組だったのよ
Michael:一つの繭が一組の4人か
 それじゃパワートライアングルは、4人のパワーを一つにして再分配したものなのかな?
Maria:あたしの勝手な推測だけれど、そんな気がする
 リズやカイルはマックスの力の影響を受けていたけれど
 お友達だっただけで、あたしは普通だったでしょ
マイケルは、それ以上ほかのことに気がつかないでくれと祈った

Maria:そんなあたしにパワーの要素が生まれるとしたら
 あのこと以外ないもの・・ジョエル以外にね
マイケルは安堵感といっしょにマリアを引き寄せた
Michael:僕はマックスたちと子供のころは記憶を共有できた
 たとえ今のジョエルが能力を持っていたとしても、今だけかもしれない
Maria:そうよね、組織的に言えばジョエルは、人間の遺伝子しか受け継いでいないって
 リズが言っていたもの・・・マイケル、お願いがあるの
マリアは彼の胸から身を起こすと真剣な目で訴えた
マイケルも体を起こしベッドに座りなおした
Michael:まだ秘密にしていることがあるのか?
Maria:ううん、秘密はもうないわ
 来週、リズたちがくるでしょ、気になることがあるの
Michael:リズにか・・?
Maria:さっき言ったでしょ、あなたたちは子供のころ記憶を共有できたって
 ジョエルとリズのおなかのベビーもそうみたいなの
マイケルは天を仰いだ
Michael:やっぱり、秘密があったんじゃないか
Maria:違うの、なにか見えるとかじゃないもの
 ただ・・リズが何かを隠しているように感じるの
 ジョエルやおなかのベビーのことじゃない、何かなのよ
マリアが心配そうにマイケルの肩に顔をうずめた
Michael:何をしてほしい?
Maria:リズの体が心配だから、なんとか聞き出すわ
 でも、もしだめなときは・・手伝ってほしいの
Michael:今日のあれのこと? 僕は試したことないぞ
Maria:あたしがいっしょなら、きっとできるわ
Michael:そうだな
 なぁ、しばらくゲリン家のパワーは秘密にしておかないか
Maria:覗かれる側は、たまらないものね
Michael:それと、僕を探偵するのもなしにしてくれ
Maria:どうしようかな〜
 たまに、こういうのを思い出してくれたら考えてもいいわ
Michael:こういうのって・・つまり?
Maria:最近のあたしたち、ずっとジョエル中心だった
 もちろん、それが不満なわけじゃないけれど・・
 二人のこと以外、何も考えていないときは
Michael:すごく刺激的だった
Maria:でしょ

リズがここを訪れる日に何をもたらすとしても怖くはなかった

=To be continued=


AuthorNote★
ヤッホー!! ついに照れ隠しの英文に逃げなかったわよ〜
意外と平気でしたけれどヨダレがでたわよ