#9 With infinity immutable

High Speed Turn

戦いは終わった
空間に浮かんだスクリーンが眩しい光に覆われたとき、リズはマリアの悲鳴を
聞いたように感じた
また暗雲が広がってきていた

Trevor:マイケル!!
トレバーはマイケルに駆け寄った
Michael:油断した...
 あと一歩のとこの詰めが甘いよな..
Trevor:黙っていろ!
咄嗟に身をかわしてはいたが、パワーの衝撃は深刻なダメージを
マイケルに与えていた

Michael:"BlueMolfo*蒼い蝶の一族"って
 最後の時は蒼い炎を放ち消滅するけれど、いつの日か不死鳥のように甦るんだって・・

Trevor:誰から聞いた?
Michael:その辺にいる誰か・・だ
 繰り返しの命より・・僕は今・・生き延びたいよ

トレバーにはその言葉が何を意味するのかわかっていた
それは別の不安を呼び起こす原因でもあった
Trevor:しっかりしろ!
 お前が弱気になるとマリアの命も危険になるんだ
お前の大切な人なんだろう!!
トレバーの言葉はすでにマイケルには届いていなかった
マイケルの意識は薄れ辛うじて生命を維持していた
 
Larek:トレバー、何が起きた!?
Trevor:マイケルが負傷した...事態は深刻だ
Larek:まずいな
Max:まずいって、星にいるなら救えるだろう
Larek:今の彼らには出来ないんだ
Max:出来ない?!
Larek:彼らは戦いの時、リミットを越えるパワーを使うことになる
 つまり他の能力をすべて無にしてしまうんだ
Max:でも他の誰か助けられる人がいるでしょう
Larek:彼らが今いる空間と星との次元を超えることは
 今のマイケルに負担がかかり過ぎる
 それだけで彼の命が危ない
Isabel:嘘よ!そんなはずはないわ、方法はあるはずよ!

Trevor:まずいことはもう一つある
Kyle:これ以上なにがあるってんだ
Trevor:僕の考えが甘かったんだ...
 マイケルとマリアの生命はリンクしてしまっている
Larek:そんな馬鹿な!!君はマリアがあれを使ったのは2回だと言っただろう
Trevor:あぁ、彼女は2回しか装置を使っていない
 だか二人の心の奥にある想いが余りにも強かったんだ
 2度目の接触で二人のリンクが起こってしまった
Liz:お願い!どういうことなのか説明して!
リズはラレックに詰め寄った
Larek:あの装置を使って交信をするとき、お互いのパルスが同調する
 続けて3度の接触をすると、その同調が一時的に切り離せなくなるんだ
 今、二人は一つの生命を分かち合っているような状況になっている

Liz:リンクを離すことは出来ないの
Larek:出来る..だが今二人を切り離せば
 弱い方の生命が維持できない
 それが誰なのか君たちにもわかるだろう
何を意味しているのかは、言うまでもなかった

Liz:マックス、どうすればいいの
 マリアは一人っきりでロッジにいるのよ

Larek:マイケルの生命力だけが頼りだ
 彼が諦めたとき、あるいは
Max:止めてくれ!
Trevor:すまない 僕のせいだ
光の向こうから聞こえてくるトレバーの声が無意味に響いた

Larek:マックス、こんな状況で悪いが私に残された時間もわずかだ
 そろそろ、この身体を持ち主に返さなければ
Kyle:これだけ引っ掻き回しておいて、逃げるのか!
 残された俺たちに何ができる
 お前らは、いつだってそうさ!傷つくのは周りにいる者だって
 同じなのを感じないのか!

カイルの怒りの言葉に答えるすべはなかった
Alex:冷静になろう
 ラレックがブロディの身体を離れなくてはいけないことと
 マイケルとマリアを救うことを別に考えなくちゃ
アレックスが苦い沈黙を破った
何かを思いついたようにマックスが聞いた
Max:トレバー、この装置を使えば僕も二人と同調できるのか?
Trevor:理論的には可能だ
 試したことはないし君のパワーだって戦いで弱っているぞ
Isabel:一人ではないわ
 ここにいる全員は一度リンクしているもの
Tess:二人までの距離だけが問題なだけよ
 時間がないんでしょ、早く方法を教えて
Larek:グラニリスを使えばうまくいくかもしれない
 マックス、これが僕にできる最後の助言だと思う
 そのためにはマリアのところへ急げ
 ロッジへの通路を開けておける時間も限界がある



僕たち、まだ生きているよな・・・
マイケルは雲の上にでも寝ているような気がしていた
全身に感じる痛みとそれを共有しているマリアの感覚がそんな思いを忘れさせた

Michael:マリア、聞こえてるか?
Maria:えぇ、とうとう災難マグネットにくっ付いちゃったみたいね
Michael:らしいな...
マイケルの痛みが増すとマリアの顔も苦痛に歪んだ
Michael:すまない、大丈夫か?
Maria:あんたと同じ、最悪よ・・・
Michael:どうなるのかな
Maria:泣き言いわないの、せっかくのチャンスなのにヒーローになりそこなうわよ、痛っ・・
自分の数倍は辛いはずなのになんて奴だ
この休暇でマリアに驚かされるのは何度目になるだろう
これからも、ずっとそんな日々が続いたらいいのにな
実際は遠く離れている二人なのにお互いの存在は側にいるよりも強く感じていた
深く息を吸い込むと痛みが薄らいだ
幻想の中の二人は中断していた休暇を楽しんでいた
こんなことならお袋さんとの約束なんて
破っちまえばよかった
幻であってもいい
マイケルは腕の中のマリアの温もりを
確かめていた
マリアは気が遠くなるような痛みの中にいた
こんなことになるなんて..
ずっと二人の想いがいっしょになることを望んでいたけれど
その後に"Fin"の字幕なんて想像していないわ
また、みんなに会いたい
それより先に・・本物のあんたをこんな風に感じたい


Trevor:どうするんだ
 衰弱しはじめている
Larek:マックス、本当にいいんだな
Max:危険は承知している
Larek:これとロッジにある装置の二つを使え
 全員がリンク出来たら、パワーを逆流させマイケルに送る
 誘導はトレバーお前がしてくれ
 今の君たちにどれだけの力が残されているかわからない
 だが君たちにはグラニリスがある
Max:どう使えばいいのか僕たちは知らない
Larek:心配ない、集中すれば装置が誘導してくれる
Kyle:便利なもんだよなぁ考えるだけでいいってのは
カイルのひとり言はテスの視線に吹き飛ばされた

Larek:成功の確率は・・言わないほうがいいか
Max:どんなに低い確率だとしても何もせずにいるよりはいい
Larek:そうか、危険性だけは言っておくぞ
 パワーを送ることで君たちの能力が失われる可能性がある
Isabel:人間になれるの?
Larek:いや、身体の組織が変化するわけではないから
 自分を守る能力を持たない異星人になる
 当然、私たちとの交信も二度と出来ない
 もっと悪くすれば
マックスは次に来る不吉な言葉さえぎった
Max:星から拒絶されるということだな
Isabel:かまわない
 私達にとって故郷と呼べる星があるとしたら、この地球でしょ
Tess:私たちは人間が敵ばかりではないことを知っているもの
Trevor:急いでくれ!脈がどんどん弱くなっている

保安官の側に歩み寄ったマックスが決意を伝えた
Max:保安官、僕たちはマイケルとマリアを助けに行きます
 たとえ僕たちの身に何が起こったとしても、大切な友人は守るつもりです
 リズたちを迎えに来てください
もう止めることが出来ないのを承知した保安官が頷いた
Larek:急いでくれ
 あ..テス頼みがある
Tess:何?
Larek:いつもこの身体の持ち主には空白の時間しか与えなかった
 ずいぶん働かせてしまったから、その・・楽しい記憶を彼に残してやってくれるか?

Tess:わかったわ
 マイケルたちを助けたら、シドニーといっしょに
 キャンプに参加する相談をしていた夢でも残すわね

Larek:しばらくは目覚めないからいいだろう
 マックス、幸運を
Max:ありがとう、君も気をつけて帰ってくれ
一瞬の笑顔を残すとラレックは去り、眠っているようなブロディが残された
保安官はロッジへの通路を急ぐ6人の後姿を見送った

Maria:ちょっと寒いね
マイケルの手が力なく動いた
Michael:パワーも空っぽらしいよ
Maria:お腹すいてるの?
二人に微笑みが浮かぶ
もう怖くはなかった ただ出来るならマリアだけでも救いたかった

『マイケル!マリア!』
どこか遠くで二人の名前を呼ぶ声がした
ここが地球からどれほど離れている場所なのかを忘れるはずがない
彼らの声が聞こえるはずがない
『マイケル!マリア!』
Michael:マリア聞こえたか!
マックスやイザベル他のみんなの声が響いていた
Michael:マリア、眠っちゃだめだ!みんなが来てくれる
マリアが薄っすらと目を明けた
Maria:そうよね、みんながあたし達を見捨てるわけないもの

Max:見つけた!
Kyle:おい、あれって本当のことか?
Tess:そんなところで妄想ふらませないで
 そんな場合じゃないでしょ
Alex:だけど、僕にも見えるけど・・
みんなの視界に入ってきたのは抱き合って横たわるマイケルとマリアだった
繭のようなものに包まれた二人は何も身に付けていない
Isabel:他のことに気を取られちゃダメよ
 二人の実体は別のところにあるの
 魂だけがここにあると思って
Liz:でも返事がないわ
Max:トレバー、マイケルは!
Trevor:なんとか持ちこたえているが危険だ
Max:すぐに助ける みんな用意はいいかい
 トレバー誘導を頼む
意識の中でみんなの返事を確認するとマックスが集まってくるみんなのパワーを
グラニリスに向って誘導した
6人の身体にもマイケルとマリアの苦痛が
伝わりはじめた
Liz:マリア、今いくわ
Alex:頑張れ
Kyle:死ぬなよ、痛てっ!
マイケルとマリアを包んだ繭が光を放ち始めた
途切れそうになっていた命の炎は再び燃え上がっていた
マックス、弟を救ってくれてありがとう
トレバーの声が聞こえたのと同時にマリアが目を開けた

Maria:マイケルはどこ?
二人を救った装置からは何も答えがなかった



Michael:う・・・・ん
Trevor:気がついたか?
Michael:助かったんだな
 どれくらい眠ってた・・・
 あっ、地球の時間で頼む
Trevor:たぶん1時間くらいだな

Michael:よかった...
 今から帰れば、まだ間に合う
Trevor:・・まだ帰れないと言ったらどうする
Michael:僕の役目は終わったろ?
 怪我は予想していなかったけれどな

トレバーは黙ったままだった
Michael:まさか帰れないとわかっていて連れてきたのか?
Trever:いや、お前が望むとおりにしようと考えていたさ
 こんなアクシデントが、なければな
 なぁ、ここに残る気は本当にないのか?
 お前が探していた故郷の星なんだぞ
Michael:そうだよな
 少し前なら迷うことなくこの星に残ると答えていただろうなぁ
マイケルは、ゆっくり起き上がりながら言った
Trevor:マリアか?
Michael:彼女のことだけじゃない・・
 正直に言えば大部分がそうかな
Trevor:想像はついていたよ
 それほど恵まれていたとは思えない暮らしをして来た中で
 彼女はお前が見つけた一番大切な存在だったよな
Michael:そんなんじゃないけどさ
Trevor:隠すな
 意識がない時、二人がどうなっていたか忘れちゃいないだろう
Michael:どうなってたっておとなしく寝ていたさ
 さすが暴れる気力は残っていなかった
マイケル話題を反らすように横を向いた
そんなマイケルの仕草をみたトレバーは、からかうように続けた
Trevor:あぁ、身体はおとなしく眠っていたさ
 なにしろ結合しているお前たち二人のリンクを切り離すのはたいへんだったんだ
 なぁ、本当はどういう状況だったか鮮明に憶えているんだろう

トレバーがニヤリと笑った
マイケルの手にマリアの柔らかさが甦ってきた
Michael:あのさ・・リンクしていたのはハートだけだよな
トレバーは少し赤くなったマイケルを見ながら大笑いをした
Trevor:心配するな、危ないことにはなっていなかった
 そうだな、保育器の繭に二人で入っているような感じだったな
トレバーはマイケルの反応を楽しんでいた
Trevor:でも悪いが彼女の姿態は視界に入ってしまった
Michael:う・嘘だろ!!僕だって見たことないのに
Trevor:そうなのか?
Michael:・・・うるさい
 くだらないこと気にする時間があるなら早く僕を戻す方法を考えてくれ
現実に引き戻されたようにトレバーの表情が暗くなった
Trevor:今は無理なんだ
Michael:今は?
Trevor:地球とどのくらい距離が離れているかお前には実感がないだろう
 あの空間は地球までの中継基地のようなものだった
 残念だが、お前たちを救うためのパワーは空間も破壊してしまった
Michael:もう一度作ればいいだろう
Trevor:そうだな だが我々のパワーだって万能ではない
 同じものを作るためには膨大なパワーと時間を必要とする
 半年あるいは1年かかるかもしれない...こちらの次元でだ
 地球の時間でどのくらいになるか
マイケルは呆然と宙を見つめていた

Michael:リップバンウィンクル*だな・・
 自分が誰かの意思で作られた存在なのを知ったとき
 それを受け入れるしかないと思った
 地球のどこにいても異分子でしかないんだ
 本来居るべき場所がわかったら、そこへ戻るのが最良だ
 これで、いいんだ・・
横を向くマイケルの瞳が潤んでいた
ラスはもういない・・ここにいるのはマイケルだ
二人が別の存在と認めても弟であることに変わらなかった
Trevor:マイケル、僕達にだって感情はある
 ただ涙腺は退化してしまったがな・・
Michael:なにが言いたい
Torevor:教えるよ、危険だが方法が一つある
 だが、またマリアの力を借りなければいけない
Michael:マリアの?
Trevor:お前たち二人をもう一度リンクさせるのさ
 前回は感情だけのリンクだっただろ 今度はそれを目標に身体を転送させるんだ
Michael:だけどそれは・・前の体験から推測すると
 もし僕が戻れなかった時にマリアの命を奪うことになってしまう
Torever:誤魔化しは通じないな
 その通りだ 二人とも助かるか迷子になるか
 結果はわからない
Michael:その選択を僕にしろと言うんだろ
 お優しいことだ・・・
Trevor:僕が望んでいるとでも思っているのか!
 再び自分の星を捨て敵だらけの場所へ、しかも命の保証もないのに
 行かせようとしていると思っているのか
 お前は僕が誰なのか忘れている
Michael:・・悪かった
Trevor:いいさ、そう思われたってしかたない
 だがな、お前たち二人ならきっとやり遂げられる そう思うから言ったのさ
 我々のコントロールよりも強い絆がお前とマリアにはある
 肉親である僕よりも大切にしているなんて
Michael:妬けるか?
Trevor:馬鹿言ってるんじゃない



Maria:マイケルはどこ?
Liz:マイケルも助かったわよ
Maria:良かった・・・全部終わったのよね
ロッジにはマイケル以外の全員が揃っていた
マリアの問いかけに誰も答えようとはしなかった
Maria;どうしたの?まだ何かあるの・・
Liz:マリア、あのね
Max:僕が言うよ
 マリア、僕達は力を合わせて君とマイケルの命を救った
 そのせいで・・僕らの星との交信が出来なくなってしまった
 マイケルはまだ戻っていないんだ
 通信は途絶えてしまった・・僕達から連絡することは

Maria:いや!聞きたくない!約束したのよ
 マイケルは絶対帰ってくるって
 あの装置を貸して! あたしなら彼を呼び戻せるわ
Alex:マリア、今の状態じゃ無理だよ
 君が壊れちゃうよ
Maria:かまわないわ
 マックスあなたならあたしの体力を回復させられるでしょ
 どうして、みんな何もしてくれないのよ!
出来ることならどんなことでもする、誰もが同じ気持ちだった
何も出来ない歯がゆさを人一倍感じているのはマックスだった
Liz:ちょっと二人にしてくれるかしら?
今はリズの言葉に従うのが唯一の救いのように思えた

Liz:お願い聞いてマリア
 あなた達、二人を救うために全員が力を合わせたわ
Maria:知ってる・・聴こえていたから
マリアが涙をこらえながら答えた
Liz:私たちは諦めたわけじゃないわ
 今は無理なだけ、使えるパワーがないのよ
 マリア、我慢しないで泣いてもいいのよ
Maria:泣かない・・あいつが戻ってくるまで絶対泣かないって決めたの
 ね、リズもう1度あたしを信じて
 あたしはマイケルに逢わなきゃ・・そうしなくちゃ戻ってこられない
Liz:わかったわ
 誰の力も頼ることができない状況になった今は、あなたの考えていることが
 マイケルと連絡を取るただ一つの方法だと思うわ
Maria:だったら・・
Liz:だったらなのよ、休んでちょうだい
 唯一あなたが頼りなのに、その状態じゃ無理なのは、私が言わなくたってわかるでしょ
 マイケルを見つけたいなら30分でもいいわ まず眠って休むこと
 たぶん、彼だってあなたと同じ状態だと思うわ
 そんなに慌てなくても大丈夫よ
Maria:そうよね・・そんなに簡単にあきらめないわよね
マリアには気力しか残されていなかった
リズの言葉に安心するかのように眠りについていた

ドアの閉めるとリズは静かにマリアの言葉をみんなに伝えた
驚きはなかった、マイケルを呼び戻そう
決意は6人の心に広がった

=to be continued=